Морган Райс - ドラゴンの運命 стр 4.

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ガレスは石造りの部屋に一人たたずみ、ヘレナの足音がこだまするのを聞いていた。ふるい落とすことのできない寒気を感じていた。すがれる確かなものはもう何もないのだろうか?

ガレスは開いたままの扉のほうに目をやり、震えながら立ちすくんでいたが、誰か別の者が入って来るのを見て驚いた。 ヘレナとの会話を、脅しを整理する間もなく、ファースの見慣れた顔が入って来た。申し訳なさそうな表情でためらいがちに部屋に入ってくる彼に、普段の弾む足取りは見られなかった。

「ガレスかい?」ファースは自信なさそうな声で尋ねた。

目を見開いてガレスを見ながら、心苦しい様子でいるのがガレスにもわかった。そのほうが良いんだ、ガレスはそう思った。 ガレスに剣を振り上げるよう仕向けて決心させ、実際よりも偉大な者であると信じ込ませたのはファースなのだから。彼がそそのかさなかったら、どうなっていたかわからない。ガレスは試そうともしなかったかも知れない。

ガレスは激しく怒りながら彼のほうを向いた。やっと自分の怒りを向ける相手を見つけた。そもそも、ファースこそ自分の父を殺した張本人だ。この馬舎の愚かな少年がこの一連の混乱に自分を巻き込んだのだ。今となっては自分はできそこないの、マッギルの後継者の一人となっただけだ。

「お前なんか嫌いだ」ガレスは怒りで煮えくり返った。「お前の言った約束が今ではどうだ?私が剣を振りかざすだろうと言った確信は?」

ファースは緊張に息を呑んだ。言葉もなかった。何も言うことがないのは明らかだ。

「申し訳ありません、陛下」彼が言った。「私が間違っていました」

「お前のすることは間違いばかりだ」ガレスが鋭く言う。

確かにそうだ。考えれば考えるほど、ファースがいかに誤っているかを悟るばかりだ。実際、ファースがいなければ父はまだ生きていただろう。そしてこのような騒ぎに巻き込まれることもなかった。王位の重圧が自分にのしかかることも、すべてがうまくいかなくなることもなかったろう。ガレスは、自分が王になる前、父の存命中に過ごしていた平穏な日々が恋しかった。突然、元の状態をすべて取り戻したい衝動に駆られたが、それは不可能だった。何もかもすべてファースのせいだ。

「ここで何をしている?」ガレスが詰問する。

ガレスは明らかに緊張した様子で咳払いをした。

「えっと、召使たちが話していて・・・噂を聞いたものですから。ご兄弟があちこちで聞きまわっていると、耳に入ってきて。召使たちの働くところで、凶器を見つけるために汚物の落とし樋を探っているのが目撃されたって。父君を刺すのに使った短剣です」

その言葉にガレスは全身が冷たくなり、衝撃と恐怖で凍り付いた。これ以上ひどい日があろうか?

彼は咳払いをした。

「彼らは何を見つけたんだ?」ガレスが尋ねた。喉が渇き、ことばがうまく出てこない。

「わかりません、陛下。何か疑っているということしか」

これ以上深まることなど予想できなかったガレスのファースへの憎しみが一層強くなった。彼のへまさえなければ、凶器をきちんと始末してさえいれば、このような状況に置かれることもなかった。ファースのせいですきができてしまった。

「一度しか言わない」ガレスがファースに詰め寄り、これ以上はないほどの怖い顔で言った。「お前の顔など二度と見たくない。わかったか?私の前に二度と現れるな。お前を遠く離れた場所へ追放する。そしてこの城の敷居を再びまたぐことがあれば、お前を逮捕させる。」

「さあ、行け!」ガレスが叫んだ。

ファースは目に涙をため、振り向いて部屋から出て行った。廊下を駆けていく足音がずっとこだましていた。

ガレスは再び剣と儀式の失敗に思いをめぐらせた。自分で災難の口火を切ってしまったような気がしてならなかった。崖っぷちへと自分で自分を追い込み、ここから先は下降の一途をたどるだけのように感じられた。

父の部屋で、静けさの中に根が生えたように立ち尽くし、震えていた。自分が一体何を始めてしまったのかと考えながら。これほど孤独を感じ、自信を喪失したことはなかった。

これが王になるということなのか?


*


ガレスは石造りのらせん階段を早足で上り、次の階へ、城の最上階の胸壁へと急いだ。新鮮な空気が必要だった。考える時間と場所が。宮廷、臣民を見渡し、それが自分のものであることを確かめる王国で最高の場所が。悪夢のような一連の出来事があった後もなお、自分がいまだ王であることを確かめるための。

ガレスは従者たちも退け、たった一人で踊り場から踊り場へと、息を切らして走り続けた。一回だけある階に立ち寄り、身をかがめて息をついた。涙が頬を伝った。自分を叱る父の顔が、いたるところで目の前に浮かんだ。

「あなたなんか嫌いだ!」宙に向かってガレスは叫んだ。

嘲けるような笑いを確かに聞いたような気がした。父の声だ。

ガレスはここから逃げたかった。振り返り、走り続けてやがて最上階に着いた。扉から走り出ると、新鮮な夏の空気が顔に当たった。

深呼吸をして息をつき、太陽の光とあたたかい風を浴びた。父の王衣を脱ぎ、地面に投げ捨てた。暑くて、まとっていたくなかった。

胸壁の端に行き、城の壁につかまった。荒い息で宮廷を見下ろした。切れることのない人の波が、城から出て行く。儀式、自分の儀式が終わって帰る者たちだ。彼らの落胆がここからでも感じられた。誰もが小さく見える。皆が自分の支配下にあることに驚くばかりだった。

だが、それはどれくらい続くのだろう?

「王であるというのはおかしなものよ」老人の声がした。

ガレスは振り向いて驚いた。アルゴンがほんの数歩先に立っていた。白い外套と頭巾を身に着け、杖を手にしている。彼は口元に笑みを浮かべてガレスを見た。目は笑っていなかった。輝きを持った目がまっすぐに向けられ、ガレスは追いつめられた。多くを見抜く目だ。

アルゴンに言いたいこと、尋ねたいことはガレスには山ほどあった。だが、剣を振ることに失敗した今、それらの一つたりとも思い出せなかった。

「なぜ教えてくれなかったのだ?」ガレスは絶望を声ににじませながら聞いた。 「私が剣を振りかざすよう運命づけられていないと伝えることもできたであろう。恥を防ぐことも」

「私がなぜそうしなければならない?」アルゴンが尋ねた。

ガレスが睨み付ける。

「そなたは真の王の相談役ではない」ガレスが言った。「父の相談役は務めようとしていた。が、私にはそうしない」

「お父上は真の相談役を持つにふさわしかったからではないかな」アルゴンが答えた。

ガレスは怒りを募らせた。この男が憎くて、非難した。

「そなたは私には必要ない」ガレスが言った。「父が雇った理由はわからないが、宮廷にそなたはもう要らない」

アルゴンが笑った。虚ろで、怖ろしい声だった。

「お父上は私を雇ったりなどしておられない。愚かな者よ」彼が言う。「その先代のお父上もだ。ここにいるのが私の運命なのだ。実際には、私が彼らを雇ったのだ」

突然、アルゴンは一歩踏み出すと、魂を見抜くようにガレスを見た。

「同じことがそなたにも言えるだろうか?」アルゴンは尋ねる。「そなたもここにいるよう運命づけられているのだろうか?」

その言葉はガレスの痛いところを突き、ぞっとさせた。それこそ、自分でも考えていたことだった。これは脅しではないかと思った。

「血によって君臨する者は、血で支配する」アルゴンはそう告げると、素早く背を向け、歩き始めた。

「待ってくれ!」ガレスが大声で言う。アルゴンを行かせたくなかった。答えが欲しい。「それはどういう意味だ?」

ガレスには、自分の統治が長くは続かないというメッセージをアルゴンが伝えているように思えてならなかった。アルゴンが言いたかったのはそのことか、知る必要があった。

ガレスはアルゴンを追った。だが、近づいた瞬間、目の前でアルゴンが消えた。

振り返って周囲を見回したが、何も見えなかった。どこかで虚ろな笑い声が響くだけだった。

「アルゴン!」ガレスは呼んだ。

もう一度振り返り、天を仰いだ。そして片膝をつき、頭をのけぞらせて甲高く叫んだ。

「アルゴン!」

第七章

エレックは大公、ブラント、そして数十名の大公の側近たちと並んで、サバリアの町の曲がりくねった道を進んだ。一行が召使の少女の家へと向かう間、群衆が溢れ出てきた。エレックが少女にすぐにでも会いたいと申し出て、大公が個人的に案内をしたのだった。大公が行くところにはどこにでも人々がついていった。エレックは膨らみ続ける側近の一団を見回し、少女のところへ大勢の人間を従えて行くことになり困惑していた。

初めて彼女を見て以来、エレックは他のことが考えられなかった。この少女は一体誰なのだろう、と彼は思った。気高く見えるにもかかわらず、大公の屋敷で召使として働いている。なぜ自分からあんなにあわてて逃げたのだろう?長年、王族の女性たちにもすべて出会いながら、この少女だけが自分の心をとらえたのはなぜだろう?

これまで王族たちに囲まれて生きてきて、自分も王の息子であるため、他の王族も一瞬にしてそうと見分けることができた。そして彼女を見つけた瞬間、今よりもずっと高い身分の者だと感じ取ったのだった。彼女が誰なのか、どこから来たのか、ここで何をしているのか知りたくて好奇心でうずうずしていた。もう一度この目で見て、自分が想像しているだけなのか、再び同じ感覚を持つのか、確かめる必要があった。

「召使たちは、少女が市の郊外に住んでいると教えてくれました」大公が歩きながら説明する。一行が進むのを、道の両側で人々がよろい戸を開けて見ていた。大公と側近たちが普通の道に現れたことに驚いた様子だった。

「見たところ、彼女は宿屋の主人の召使のようです。出自、どこから来たかは誰にもわかりません。ある日この市にやって来て、宿屋で年季奉公に入ったということしかわからないのです。彼女の過去は謎のようです」

一行はまた別の横道に曲がった。進むにつれ、敷石は一層歪み、小さな家々は密集してどんどん傾いたものになっていく。大公は咳払いをした。

「私は特別な行事のときだけ彼女を召使として雇いました。静かで人付き合いを避けています。誰も彼女のことはあまりよく知らないんですよ、エレック」大公はやがてエレックのほうに向き直り、その手首に手を置いて言った。「本当によろしいのですか?誰であったとしても、この女性はただの平民です。あなたには王国のどの女性でも選ぶことができるのですよ」

エレックは同様の真剣さで大公を見つめた。

「私はこの少女にもう一度会わねばなりません。誰であっても構いません」

大公は賛成しかねる様子で首を振った。一行は歩き続け、道を何度も曲がり、狭く曲がりくねった路地を通って行った。サバリアのこの一角は更にみすぼらしい様相を呈してきた。道端には酔っ払いが溢れ、汚いものが散らかり、鶏、野良犬がそこらじゅうを歩き回っていた。酒場を幾つも通り過ぎ、常連客の叫びが外に響く。一行の前で何人もの酔っ払いがよろめいていた。日没とともに、道にはたいまつがともされた。

「大公に道を開けるのだ!」侍従長が叫びながら前に走り出て、酔っ払いを脇に押しのけた。道端ではどこも、いかがわしい者たちが道を開けて、大公がエレックを連れて通り過ぎて行くのを驚いて見守っていた。

一行はついに小さい、粗末な宿屋に到着した。しっくい造りの建物で、スレート葺きの屋根が傾斜している。下の酒場には50名ほどの客を、上の階では数名の宿泊客を収容できるようだ。 正面の扉は歪み、窓は一枚割れている。入口のランプは曲がって、たいまつはろうが減って点滅していた。扉の前で一行が止まった時、酔っ払いの叫び声が窓から溢れていた。

あのような素晴らしい少女がなぜこのような場所で働いているのだろうか? エレックは不思議に思い、中から漏れてくる叫び声ややじを聞いて怖ろしくなった。彼女がこのような場所で屈辱を耐え忍ばなければならないことを考えると心が痛んだ。 これは間違っている、 エレックはそう思い、彼女を救おうと決心した。

「これ以上ひどいところはないような場所に来て花嫁を選ぼうとなさるのはなぜですか?」大公がエレックのほうを向いて尋ねた。

ブラントも彼を見た。

「これが最後のチャンスだ」ブラントが言った。「城に戻れば王家の血を引いた女性たちが大勢待っているのだぞ」

だがエレックは首を振った。決心が固かった。

「扉を開けよ」エレックが命令した。

大公の家来の一人が走り出て、扉を強く引いて開けた。気の抜けたエールの匂いが漂ってきて、家来はたじろいだ。

中では酔っ払いたちがバーにかがみ込むか木のテーブルに腰かけるかして、大声で叫んだり、互いに押し合いへし合いしては笑ったり、野次を飛ばしたりしていた。腹が出て、ひげは剃らず、服も洗っていない。がさつな人々であることはエレックにもすぐにわかった。彼らは戦士ではない。

エレックは中に数歩入って彼女の姿を探した。あのような女性がこんなところで働くなど想像できなかった。違う場所に来たのではないかと思った。

「すみません、ある女性を探しているのですが。」エレックはそばにいた男に尋ねた。腹が出てひげも剃っていない、背が高くて恰幅の良い男だ。

「で、あんたは?」男はふざけて言った。「来る場所を間違えたんじゃないか!ここは売春宿じゃない。通りの向こう側にはあるがな。みんなぽっちゃりして良い女らしいぜ!」

男はエレックに向かって大声で笑い始めた。仲間も数人それに加わった。

「売春宿を探しているのではない。」エレックはしらけた様子で答えた。「ここで働いている女性だ」

「じゃあ、宿屋の召使のことだろう。」別の大柄な酔っ払いが言った。「多分、奥のどこかで床掃除でもしてるよ。うまくいかねえな、あっしの膝にでも座っててくれたら良いのにな!」

男たちは皆、自分たちの冗談に盛り上がって大声で笑った。エレックは想像して顔が赤くなった。恥ずかしくなったのだった。こんな者たちに彼女が仕えなければならないとは、エレックには考えたくもない屈辱だった。

「それで、お前さんは?」別の声がした。

誰よりも太っている男が前に進み出た。濃い色のあごひげと目、広い顎を持ち、しかめっ面をして、みすぼらしい男たちを数名従えている。脂肪は少なく筋肉質で、明らかに縄張りを示すかのように、威嚇的にエレックに近づいた。

「私の召使の少女を盗もうとしているのかね?」と詰問する。「そういうことなら表に出な!」

男は一歩前に出て、エレックをつかもうと手を伸ばした。

だが、長年の訓練で鍛え上げられている、王国で最も偉大な騎士エレックは、この男の想像をはるかにしのぐ反射神経の持ち主だった。男の手がエレックに触れた瞬間、エレックは行動に移した。男の手首をつかむと電光石火のごとく相手を回転させ、シャツの背をつかんで部屋の反対側まで押しやった。

大男は砲弾のように飛んで行き、数名の他の男たちも道連れにして、全員がボーリングのピンのように狭い部屋の床に倒れた。

店内がすっかり静まり返った。誰もが動きを止めて見ていた。

「戦え!戦え!」男たちが唱える。

宿屋の主人はぼう然として足がよろめき、叫びながらエレックに突進してきた。

今度はエレックも待ってはいない。攻撃に応戦すべく前に進み出て、腕を上げ、相手の顔にまっすぐ肘鉄をくらわせた。鼻がへし折れた。

彼は後ろによろめき、床にうつ伏せに倒れた。

エレックは前に出て、その大きさをものともせず相手をつかみ上げて頭の上に持ち上げ、数歩前進してから投げ飛ばした。男は宙を飛び、店内の半分の人間も共倒れとなった。

誰もが凍り付いた。野次も止んで、すっかり静かになり、誰か特別な者がここに来たのだとわかったようだった。だがバーテンダーが、突然ガラスの瓶を頭の上に持ち上げ、エレック目がけて走って来た。

エレックはそれを見て既に自分の剣に手をかけていた。剣を引く前に隣にいた友人のブラントが前に出てベルトから短剣を抜き、その切っ先をバーテンダーの喉に突き付けた。

バーテンダーは正にそこに向かって来て、止まって凍り付いた。短剣が彼の皮膚を突き破るところだった。恐怖に目を見開き、冷や汗をかいて、瓶を宙にかざしながら止まっていた。周囲はピンが落ちる音さえ聞こえそうなほど静まり返った。

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