Морган Райс - 王の行進 стр 2.

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アルゴンは歩み寄り、王冠をソアの頭にしっかりと載せた。ソアは王冠がきちんと頭に納まり、金属がこめかみを包むのを、その重さが沈み込むのを感じた。そして不思議そうにアルゴンを見た。

「今、そなたが王となった。」アルゴンが宣言する。

ソアは瞬きをした。そして目を開けると、リージョン、シルバー騎士団のメンバー全員、何百名もの男たち、少年たちが室内を埋め、彼のほうを向いていた。皆が一斉に膝まづき、顔を床に近づけんばかりにして彼に礼をした。

「我らが王」 一斉に声が上がった。

ソアは驚いて起き上がった。真っ直ぐに座り、息を荒くして周囲を見回した。暗く、湿った場所だった。壁に背中を付け、石の床に座っていることに気づいた。暗闇の中で目を細めると、遠くに鉄の柵と、その向こうには明滅するたいまつが見える。思い出した。牢獄だ。宴会の後、ここに連れてこられたのだった。

あの看守が彼の顔にパンチを食らわせたことを思い出し、気を失っていたに違いないと思った。どれくらいの間かはわからない。起き上がると、深く息をし、ソアは恐ろしい夢の記憶を払いのけようとした。あまりにも現実的だった。現実でないことを、王が亡くなってなどいないことを願った。死んだ王の姿が頭から離れなかった。ソアは何かを見たのだろうか?それともただの想像だろうか?

ソアは誰かが足の裏で自分を蹴っているのを感じ、見上げると目の前に立っている者がいた。

「そろそろ目を覚ましても良い頃かと思って。」声が聞こえた。「何時間も待っていたんだ。」

薄暗い光の中で、ソアは十代の少年の顔を見た。自分と同じぐらいの年頃だ。痩せて背が低く、頬はこけ、あばた顔だった。それでも緑色の目の奥には何かしら親切で知的なものが感じられる。

「僕はメレク。」彼は言った。「君の刑務所仲間だ。どうしてここに入れられたんだい?」

ソアは気持ちを引き締めようと、身を起こした。壁にもたれかかって髪を手ですきながら、思い出し、すべてを整理しようとした。

「みんな、君が王様を殺そうとしたって言ってるよ。」 メレクがしゃべり続けた。

「そいつは本当に王を殺そうとしたんだ。ここから出ようものなら八つ裂きにしてやる。」とげとげしい声がした。

ブリキのカップを金属の柵にぶつける、ガチャガチャという音が一斉に起こった。廊下に沿ってずっと監房があるのが見えた。ソアは、不気味な外見の囚人たちが柵から頭を突き出し、チラチラと明滅するたいまつの灯りの中で自分に向かってニヤニヤ笑っているのを見た。ほとんどの者がひげも剃っておらず、歯は欠けていた。中には、何年間もここに暮らしているように見える者もいた。恐ろしい光景だった。ソアは思わず目をそむけた。本当に自分はここに入れられたのか?この者たちと一緒にずっとここにいることになるのだろうか?

「あいつらのことは気にしなくて良いよ。」メレクが言った。「この監房には君と僕だけだからね。あいつらが入って来ることはできない。君が王に毒を盛ったのだとしても僕は気にしない。僕がそうしたいくらいだからね。」

「僕は王に毒を盛ったりなんかしていない。」ソアは憤然として言った。 「誰にも毒を盛ったりなんかしない。僕は王を救おうとしたんだ。ただ王の杯を払い落としただけなんだ。」

「どうして杯に毒が入っていたってわかったんだよ?」聞き耳を立てていた者が通路の向こうから叫んだ。 「魔法かい?」

皮肉っぽい笑い声が廊下のあちこちから一斉に響いてきた。

「霊能者だ!」誰かが嘲るように叫んだ。

他の者が笑った。

「いや、ただ運よく当たっただけだろうよ!」別の誰かが大声で言うと、皆は大喜びだった。

ソアはにらみつけた。こうした非難を嫌い、きちんと正したかった。だが時間の無駄だろうということもわかっていた。それに、この犯罪者たちを相手に自分を弁護する必要もなかった。

メレクはソアを観察し、他の者たちとは違って疑いの目では見なかった。じっくりと考えているように見えた。

「僕は信じるよ。」彼は静かに言った。

「本当に?」ソアが尋ねた。

メレクは肩をすくめた。

「王に毒を盛ろうというのに、わざわざ知らせるなんてばかなことをするかい?」

メレクは振り返って歩いて行った。監房の中の自分の側に向かって数歩行くと、ソアのほうを向いて壁にもたれかかって座った。

ソアは興味を持った。

「君こそどうして入れられたの?」ソアは聞いた。

「僕は泥棒さ」メレクは、どこか誇らしげに答えた。

ソアはぎょっとした。これまで泥棒に出会ったことなどなかった。本物の泥棒。物を盗むなんて考えたこともないため、そうする者がいるということにいつも驚いていた。 「どうしてそんなことをするの?」ソアが聞いた。

メレクは肩をすくめた。

「僕の家族には食べるものがないんだ。食べないとならないだろう。僕は学校にも行っていないし、何の取り得もない。僕が知っているのは盗むことだけだ。それ以外これと言って何もない。盗むのはほとんど食べ物だけだ。何とか家族が生きていけるだけのもの。何年も逃げ切って来たけれど、捕まった。捕まるのはこれで3回目だ。3回目っていうのは最悪だね。」

「どうして?」ソアが聞いた。

メレクは黙っていた。そしてゆっくりと首を振った。彼の目に涙がたまるのを見た。「国王の法律は厳しいんだ。例外はない。3回罪を犯したら、手を切り取るんだ。」

ソアは恐ろしくなった。そしてメレクの手を見た。まだそこにある。

「まだ僕のところへは来ていない。」メレクは言った。「でも そのうち来る。」

ソアはひどい気持ちになった。メレクは恥じているように目をそらした。ソアもそのことについて考えたくなかった。

ソアは気が変になりそうで、頭を抱えた。考えを整理しようとした。この数日間は本当に目まぐるしかった。短い間にたくさんのことが起きた。達成感があり、正当性を証明できたような気持ちがしていた。未来が見え、マッギルの服毒を予見して、王を救うことができた。運命は恐らく変えることができるのだろう。宿命は変えられるのかも知れない。ソアは王を救ったという誇らしさを感じた。

その一方で、自分は今こうして牢獄に入っている。自分の汚名をそそぐことができずにいる。希望や夢はすべて断たれた。リージョンにまた加わる可能性は消えた。ここで残りの人生を終えないで済むとしたら幸運と言えよう。まるで父親のように自分を迎え入れてくれ、自分にとって唯一の父であったマッギルが、彼を殺そうとしたのが自分だと思ったことに心が痛んだ。一番の親友リースが、自分が彼の父親を殺そうとしたと思うかも知れないのも辛かった。そして最悪なのがグウェンドリンのことだ。最後に会った時のことを思い起こした。自分が娼館に足繁く通っていたと彼女が信じるようになってしまったことを考え、自分の人生の良い部分が根こそぎ奪われたような気がした。なぜこんなことがすべて自分に起こるのだろうかと考えた。自分は良いことをしたかっただけなのに。

ソアには、自分がこれからどうなるのかわからなかった。気にもならなかった。ただ自分の汚名を返上したいだけだ。王を傷つけようとなどしていないこと、彼の持つ力で未来が本当に見えたのだということを皆にわかってもらいたかった。先のことはわからなかったが、ここをどうにかして出なければならないことだけははっきりしていた。

ソアがそんなことを考えているうちに、重いブーツで石の廊下をドシンドシンと歩く足音が聞こえた。鍵の音がし、その直後にがっしりした看守が現れた。ソアをここに連れてきて、顔にパンチを食らわせた男である。その顔を見るなりソアは初めて頬の痛みに気づき、嫌悪感を感じた。

「さて、王様を殺そうとした小僧がいなかったら」看守が錠に入れた鉄の鍵を回し、にらみながら言う。カチリという音が何度か響いた後、看守は手を伸ばして監房の扉を引いた。片手に枷を持ち、腰には小さな斧を下げている。

「お前にはお前の罰が下るさ。」彼はソアを鼻であしらい、メレクのほうを向いた。「今はお前の番だ。こそ泥め。3回目だな。」悪意に満ちた笑みを浮かべて、「 例外はない。」と言った。

メレクに飛びかかって彼を乱暴につかむと、片方の腕を背中のほうへ引っ張って手枷をはめ、反対側を壁のフックにはめた。メレクが叫び声を上げ、手枷をはずそうと強く引っ張ったが、無駄だった。看守はメレクの後ろに回ってつかみかかり、抱きかかえると、枷をはめていない側の腕を取って石の棚の上に置いた。

「盗みを働かないよう教えてやる。」看守が言った。

そしてベルトから斧を取り、口を大きく開け、醜い歯を見せながら、斧を頭上高く振り上げた。

「やめて!」メレクが叫んだ。

ソアはそこに座ったまま、看守がメレクの手首めがけて武器を振り下ろそうとする間、恐怖で釘付けになっていた。数秒後にはこのかわいそうな少年の手が永遠に切り取られることがわかっていた。家族に食べさせる物を手に入れようとして犯してしまった、ちょっとした盗みのために。理不尽だという思いがソアの心の中で燃え上がった。こんなことを許すわけにはいかないとわかっていた。あまりにも不当だ。

ソアは全身が熱くなるのを感じた。熱く燃える感覚が両足から上って来て手へと流れた。時間がゆっくりと流れるのが感じられ、男の斧が宙にあるうちに、一秒の中のすべての瞬間に、男よりも素早く動いていた。手の中に燃えさかるエネルギーの球を感じ、看守に向かってそれを投げつけた。

自分の手から黄色い球が宙を伝い、尾を引いて暗い監房を照らしながら、看守の顔にまっすぐ飛んで行くのを呆然と見つめた。球は頭に当たって斧が手から落ち、看守は飛ばされて監房を横切り、壁に当たって倒れた。斧の刃がメレクの手首に届くすんでのところで、ソアは彼を救ったのだった。

メレクは目を見開いて、ソアを見た。

看守は頭を振りながら、ソアを取り押さえるため起き上がろうとした。ソアは自分の中の力を感じ、看守が立ち上がってこちらを見た瞬間、走って空中を飛び、彼の胸を蹴った。自分でも気づかなかった力が体中をめぐり、大男を宙へ蹴り飛ばした時に割れるような音を聞いた。男は宙を飛んで壁にぶつかった後、床の上に塊となって落ちた。今度は気を失うまでに打ちのめされた。

メレクはショックを受けて立ち尽くしていた。ソアはどうしたらよいかわかっていた。斧を手に取ると、急いでメレクのところへ行き、石につながれた手枷を切った。鎖が切られる時、大きな火花が散った。メレクはひるみ、やがて顔を上げて鎖が足まで垂れているのを見て、自分が自由になったことに気づいた。

ソアを見つめ、開いた口が塞がらなかった。

「何てお礼を言ったらよいのか、わからない。」メレクが言った。「あれが何にせよ、どうしたらあんなことができるのか、そして君が誰なのか、あるいは何なのか、全く見当もつかないけれど、僕の命を救ってくれたのは確かだ。借りができた。これはとても重要なことだと思っている。」

「借りなんて何もないよ。」ソアは言った。

「そんなことはない。」メレクは手を伸ばして、ソアの腕を取りながら言った。「君はもう僕の兄弟だ。そして僕はどうにかして借りを返す。いつか絶対。」そう言うと、メレクは振り返って開けっ放しの扉から急いで出て行き、他の囚人たちが叫んでいる廊下へと走って行った。

ソアは気を失っている看守と、開け放たれた扉を見やり、自分も行動を起こすべきだと思った。囚人たちの叫びは一層大きくなった。

ソアは外に出て左右を見回し、メレクとは反対方向に行くことにした。二人を同時に捕まえることはできないだろう。

第三章

ソアは一晩中走り続けた。騒がしさに驚きながら、宮廷の混然とした通りを抜け手行った。街は混雑し、人々が動揺した様子で道を急いでいた。たいまつを手にしている者が多く、夜の街を照らし、顔にくっきりとした影を投げかけていた。城の鐘が絶え間なく鳴らされている。一分に一度、低い音で鳴る鐘だ。それが何を意味するかソアにはわかっていた。死だ。死の鐘。今夜、この鐘が鳴らされる者があるとすれば、王国ではたった一人しかいない。王だ。

ソアはそう考え、心臓が鳴った。夢の中の短剣が脳裏をよぎった。あれは本当だったのか?

確かめなければならなかった。通行人、反対方向に走って行く少年を捕まえた。

「どこへ行くんだ?」ソアは詰問した。「この騒ぎは一体何なんだ?」

「聞いてないのかい?」少年はひどく興奮して言い返した。「王様が今にも亡くなろうとしているんだ!刺されたんだよ!知らせを聞こうと、人が大勢宮廷の門に集まってる。もし本当なら、大変なことだ。王のいない国なんて考えられるかい?」

そう言うと、少年はソアの手を押しのけ、振り向くと夜の街へと走り去って行った。ソアは立ち尽くした。心臓が激しく鳴っている。周りで起きている現実を認めたくない気持ちだった。自分が見た夢、虫の知らせは幻想ではなかった。未来を見たのだ。二回も。そのことにソアは恐怖を感じた。自分が思っているよりも自分の力は深遠だ。そして日に日に強まっていく。これからどうなるのだろう?

ソアは立ったまま、次はどこへ行くべきか考えた。脱獄はしたものの、どこへ行くべきか全くわからない。 直に衛兵たちが、そして宮廷の誰もが自分を探すに違いない。逃亡の事実によって、自分は一層怪しく映るだろう。だが一方で、ソアが牢屋にいる間にマッギルが刺されたとなれば、それは彼にかかっている疑いを晴らしてくれるのではないか?あるいは陰謀に加担しているように見えるだろうか?

ソアは危ない賭けに出ることはできなかった。明らかに、今、合理的な考えに耳を傾ける気分になれる者など王国にはいない。周りの誰も彼もが殺意を抱いているように見えた。そして自分は恐らくいけにえの羊になるであろう。隠れ家を見つける必要があった。嵐を切り抜け、汚名をそそぐことのできる場所。安全な場所はここからは遠くなるだろう。逃げて、自分の村に避難したほうがよい。いや、それよりももっと遠く、行ける限り、一番遠くへ。

しかし、最も安全な方法をとろうとは思わなかった。ソアはそういう人間ではないのだ。ここに留まり、汚名をそそぎ、リージョンでの地位を保ちたかった。彼は臆病者ではなかった。そして逃げもしなかった。何よりも、亡くなる前にマッギルに会いたかった。まだ生きているとして。会う必要があった。暗殺を止められなかったことへの罪の意識にさいなまれていた。ソアに何も成すすべがないとすれば、なぜ王の死を目撃する運命にあったのか?そして、王が実際は刺されるというのに、なぜ毒を盛られるところを心に描いたのだろうか?

立ったまま考えを巡らすうち、ソアはリースに思いが至った。リースはソアが唯一信頼できる人物だ。自分のことを当局に引き渡したりなどしない。安全な居場所さえ用意してくれるかも知れない。リースなら自分のことを信じてくれるような気がした。ソアが王のことを純粋に慕っているのを、リースは知っている。ソアの名誉を挽回してくれる人がいるとしたら、それはリースだ。彼を見つけなくてはならない。

ソアは裏道を全力で走り出した。人の流れに逆らってあちこちを曲がり、宮廷の門とは反対方向に、城に向かって行った。リースの部屋が、市の外壁に近い建物の東翼にあるのは知っていた。リースがそこにいることだけを願った。もしいれば、気が付いてもらい、城に入る方法を見つけてくれるかも知れない。ソアは、外にいるのが長引けばすぐに見破られてしまうだろうと考え、気分が落ち込んだ。もし群衆が自分に気づけば、自分は八つ裂きにされてしまうだろう。

道から道へと進み、夏の夜のぬかるみに足を滑らせながら、やっと城の石造りの外壁までたどり着いた。数フィートごとに配置され、警戒する衛兵たちの視線のちょうど下を壁にぴったりと沿うように走った。

リースの部屋の窓に近づくと、下に手を伸ばして表面のなめらかな石を一つ拾った。幸運にも、取られずに済んだ唯一の武器が、使い慣れ、頼りにしてきた投石具だった。腰からそれを出し、石をはめて投げた。

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